強姦罪、強姦致傷罪について
最近、有名な俳優さんが強姦致傷罪で逮捕されたとのニュースが世間を賑わしています。
近年、裁判員裁判が始まって以降、総じて厳罰化の傾向にある(従前と比べて量刑が重い)といえますが、
特に、強姦や強制わいせつ等の罪については、量刑が重くなっていると感じられます。
強姦致傷罪については、刑法182条は「177条(強姦罪)もしくは178条第2項の罪(準強姦罪)またはこれらの罪の未遂罪を犯し、よって女子を死傷させた者は、無期又は5年以上の懲役に処される」と規定しています。
簡単に説明すると、本条は、強姦しようとして、その際に被害者に傷害を負わせた場合を規定するもので(姦淫が成功したかどうかに関係なく成立します。)、刑法177条が「暴行または脅迫を用いて13歳以上の女子を姦淫した者は、強姦の罪とし、3年以上の有期懲役に処される。13歳未満の女子を姦淫した者も、同様とする。」と定め、刑法178条2項が「女子の心神喪失もしくは抗拒不能に乗じ、または心神を喪失させ、もしくは抗拒不能にさせて、姦淫した者は、前条(強姦罪)の例による。」と定めていることと比べると、法定刑が重くなっていることがわかりますね。
後述の通り、強姦致傷罪は、被害者の性的自由を侵害したのみならず、その身体も侵害している点で罪が重くなっているわけです。
強姦罪の保護法益(法が一定の行為を規制することで保護しようとしている利益)は、個人の性的自由でありますが、被害者の尊厳を著しく害するという側面がありますので(実際、被害者は、その後にPTSDに悩まされたり男性恐怖症になったりりすることがあり、その被害は大変大きいといえます。)、初犯であっても実刑判決が下ることが多いです。
特に、強姦致傷罪については、裁判員裁判対象事件であり、動機や犯行態様等の点、一般情状(加害者の境遇、反省の度合い、被害弁償の有無等)の点はさておいて、厳しい判決が下ります。
ここで、強姦罪、強姦致傷罪について専門的な話を少ししたいと思います。
強姦罪は、「暴行又は脅迫を用いて13以上の女子を姦淫したこと」、又は、「(暴行又は脅迫を用いなくても)13歳未満の女子を姦淫したこと」で成立します。そのため、被害者が13歳以上であった場合、被害者の意思に反する性交であっても、暴行又は脅迫を用いていなければ強姦罪は成立しません(そのような場合はあまり想定しがたいですけども。)。
なお、暴行又は脅迫を用いなくても、被害者を心神喪失の状態にさせて、又は、被害者が心神喪失状態、抗拒不能状態にあることに乗じて姦淫した場合には準強姦罪(刑法178条2項)が成立します。例えば、女性がお酒によって寝ていた際に姦淫した場合なんかは準強姦罪となります。昔、大学サークルの飲み会で女性にしこたま酒を飲ませて意識を失わせた後に姦淫していたという事件があり、準強姦罪で実刑判決が出たことを覚えている人は多いと思います。
次に、強姦罪、強姦致傷罪は被害者が女性に限定されており、被害者が男性の場合には強姦罪、強姦致傷罪は成立せず、強制わいせつ罪、強制わいせつ致傷罪が成立するにとどまります。
では、被害者がいわゆる性転換手術をして、戸籍上も「女性」となった人(元男性)だった場合はどうか?という問題がありますが、私は、戸籍上「女性」であっても、罪刑法定主義の原則から、強姦罪は成立せず、強制わいせつ罪が成立するにとどまると考えます。この点は、「性同一性障害者の性別の取扱いの特例に関する法律」が成立し、刑法成立当時とは時代背景も異なっていますので、今後は刑法の規定改正もありうると考えています。
それから、夫婦関係・内縁関係にある男女間でも強姦罪が成立するか?という争点があります。昔、夫は妻に対して性交を要求する権利があるので、夫婦間では強姦罪は成立せず、暴行罪、脅迫罪が成立するにとどまると主張する見解がありましたが、現在では、成立を認める見解が有力です。
最後に、「SMプレーの一環として、13歳以上の女性相手に暴行、脅迫して姦淫したらどうなるの?」という疑問をもつ人がいるかもしれませんが、この場合は被害者の承諾があるので(男女双方の合意による「プレー」なので)、強姦罪は成立しません。
以上、久々に法律についての解説を書いてみました。長くなったので、今日はこのへんで。
2016年8月25日 | コメント/トラックバック(0) | トラックバックURL |
カテゴリー:法律学