頂き女子りりちゃんの減刑について
本日、ネットで、詐欺罪で起訴されていた「頂き女子りりちゃん」の控訴審判決があったとのニュースを目にしました。
第一審では懲役9年だったところ、控訴審では減刑されて懲役8年6か月となったとのことです。
これについて、「なぜ減刑されるのか、わからない」といったコメントがいくつかあったので、説明したいと思います。
事実関係を争っている事件(事実誤認を理由とした控訴事件)ではなく、事実関係に争いのない事件(量刑不当を理由とした控訴事件)については、何もしなければ、控訴しても減刑されることは少ないといえます。ただ、今回のケースのように、貢ぎ先のホストが被害者に被害弁償をしたといった新たな事情が第一審の判決後に生じた場合には、それを踏まえて判断されますので、減刑されることは珍しくありません。
詐欺事件では、被害者に対する被害回復が量刑判断において相当程度考慮されるのですが、今回のケースでは、ホストから1800万円という相応の額の被害弁償がなされていますので、その限度で一部、被害者の被害が回復されたといえ、この点を考慮して減刑されたものと思います。被害総額は1億5000万円以上とのことですが、仮に、この被害総額の全額が賠償された場合にはさらなる減刑がなされたものと予想されますし、被害総額を上回る賠償金が被害者に支払われた場合には、減刑幅はさらに大きくなると思います。
他方で、「なぜ執行猶予がつかないのか」といったコメントもありましたが、被害総額が1億5000万円以上という多額にのぼる詐欺事案では、特段の事情がない限り、実刑になるのが一般的であり、執行猶予はつかないでしょう。詐欺事件では、被害弁償がなされていなくても、前科前歴がない(初犯だった)、被害額が大きくない、犯行態様や犯行動機が悪質でない、被告人が十分反省している、社会復帰後の更生環境が整っている、社会的制裁を一定程度受けている(勤務先を解雇された、ニュースで報道された等)といった種々の情状を考慮して、執行猶予が付されることはありますが、今回のケースは被害額があまりに過大ですから、初犯であっても、また、被告人がいくら反省の意を表していても、執行猶予は付されないのは仕方ないでしょう。
詐欺事件を含む被害者のいる犯罪では、被害者に対して謝罪・賠償し、その許しを得ることがとても重要であり、起訴前の段階で被害者と示談できた場合には、起訴猶予となることはよくあります(ただし、前科前歴の有無や被害額等の事情にもよります)。ただ、逮捕・勾留されている被疑者が被害者と直接やりとりすることはできませんし、逮捕・勾留されていなくても、加害者と直接示談交渉することを受け入れてくれる被害者は少ないのが現状です。そのため、罪を犯してしまった場合には、速やかに弁護士に相談・依頼するのがよいと思います。
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2024年9月30日 | コメント/トラックバック(0) |
カテゴリー:日記
交通事故の過失割合
今年もいつの間にか9月になってしまいました。若干涼しくなってきたかなと感じています。
バイクについては、まさにオンシーズンですので、久しぶりにどこかに行きたいと思っています。結局、毎年恒例ですが、今年の夏も北海道ツーリングは実現しませんでしたので。
さて、今日は、前回に引き続き、交通事故について書きたいと思います。琥珀法律事務所の取扱事件のうち、交通事故事件が急増しており、その案件対応の中で依頼者から質問を受けることが多い過失割合について、簡単に説明できればと思います。
まず、過失割合は、事故状況から大枠の見通しをつけ、個別具体的な事情を踏まえて修正する流れで検討することになります。
このときに真っ先に参考にするのは、別冊判例タイムズ38の「民事交通訴訟における過失相殺率の認定基準 全訂5版」(東京地裁民事交通訴訟研究会 編)です。法曹実務、保険実務において、交通事故の過失割合を検討する際に参考にされる本であり、交通事故事件を取り扱う弁護士や保険会社の交通事故担当者にとって、この本は必須といえます。交通事故事件を多く取り扱う弁護士業界で、略して「別冊判タ」、「判タ」などと呼ばれている本です。
別冊判タでは、「歩行者と四輪車・単車との事故」、「歩行者と自転車の事故」、「四輪車同士の事故」、「単車と四輪車の事故」、「自転車と四輪車・単車との事故」、「高速道路上の事故」、「駐車場内の事故」の7つに事故類型が大きく区分されて、各事故類型の典型的な事例についての過失割合が示されています。
まずは、別冊判タを参照にして、どの事例に当てはまるのか、もしくは、どの事例に類似しているかを判断し、それをベースに各種修正要素(速度違反やウインカー不点灯、徐行なし、大回り右折、直近右折、歩行者の年齢(児童、高齢者)などの事情)を考慮して最終的な過失割合を判断することになります。
しかし、別冊判タがすべての事故類型(事故のパターン)を網羅しているわけではなく、当然に、別冊判タに掲載されていないパターンの交通事故も多数存在します。このときは、上記のように、別冊判タの中のどの事例に近いのか(類似しているのか)をまず判断するのですが、類似の事例がない場合には、裁判例を検索して調べたり、その他の交通事故の過失割合に関する書籍を調べたりして、個別に過失割合を検討することになります。この作業はけっこう大変で、膨大な裁判例がありますので、それなりに時間がかかってしまいます。
そのうえで、弁護士は、上記で判断した過失割合に関する見通しを依頼者に伝えるのですが、依頼者の認識とのズレが生じることも珍しいことではありません。確かに、実感として、なぜこの過失割合になるのかと疑問に思う場合も少なくなく、依頼者の気持ちも理解できるところですが、最終的には、実務上はこうなるとしか説明できないのが辛いところです。
また、算定した過失割合が妥当だとしても、事故の相手方がその過失割合に納得せず、スムーズに解決に至らないこともよくあります。この場合には、早期解決を優先して、互いに歩み寄りをするか、交渉での解決は不可能と判断し、訴訟等の手続に移行させるかを判断することになります。
以上、今回は、過失割合の算定について簡単に解説してみました。事故に遭ってこのブログを見た方の参考になれば嬉しく思います。
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2024年9月4日 | コメント/トラックバック(0) |
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