コロナによる経営不振を理由とした退職勧奨・解雇

 いつからか、毎月最低1回はこのブログを更新しようと決意しまして(ブログ開始当初は毎日更新を目標にしたのですが、それは早々に諦めました。そんなに毎日書くネタないので。)、しばらくその頻度を維持していました。
 ところが、今月は27日なのに一度もブログを書いていないことにさっき気づきまして、焦って何か書こうと思った次第です。

 そういえば、しばらくの間、法律関連の話はしていないなぁ、少しでも読者の役に立つことが書けたらいいなぁと思って決めたテーマが、タイトルにあるように、コロナによる経営不振を理由とする退職勧奨・解雇になります。

 弊所は解雇についてのご相談をそれなりの頻度でいただいているのですが、労働者からの相談で多いのは「経営不振で解雇された」というものではなく「経営不振を理由に退職するように迫られている(退職勧奨を受けている)」、「退職勧奨に応じないと解雇すると言われている」というものです。

 まず、解雇と退職勧奨は異なる概念であることを理解することが重要です。解雇は「雇用契約(労働契約)を終了させる一方的な意思表示(通告)」ですが、退職勧奨は「雇用契約を合意解約することに応じてもらえないかという申入れ(お願い)」にすぎません。
 例えば、「明日でクビです」と言われた場合は解雇に該当しますが、「明日で辞めてもらいたい」とお願いされた場合は退職勧奨に該当します。とはいえ、実際にはその線引きが難しいんですけどね。例えば、「明日から来なくていいよ」と言われた場合は解雇なのか退職勧奨なのか、はっきりしませんよね?
 話を戻しますが、会社(使用者)から退職勧奨を受けても、労働者が退職勧奨に応じなければ(退職することに同意しなければ)、雇用契約は終了せず続きます。この点は、労働者の同意の有無を問わずに雇用契約を一方的に終了させる「解雇」と大きく異なるところです。

 会社(使用者)は原則として退職勧奨を自由に行うことができますが、その態様は穏当なものでなければなりません。退職勧奨の際に怒鳴ったり、労働者の人格を否定する発言をしたり、脅迫したり(例えば、「自主退職しないと懲戒解雇するぞ?」と発言するような場合)、嫌がらせをしたり(例えば、退職勧奨に応じるまで仕事をさせない、一人だけ別室に配置して他の従業員と接触させない等)すると、それは違法な行為と認定され、労働者に対して損害賠償義務(慰謝料支払義務)を負うことになります。
 また、このような違法な退職勧奨の結果、退職に応じると労働者が同意しても、後からその同意は無効と判断される可能性もあります。
 いずれにせよ、退職勧奨を受けた場合、突然のことで動揺する方が多いと思いますが、その場で即断即決すること(退職するか否かについて返事をすること)は避けた方が無難といえます。いったん退職の合意が成立してしまうと、あとになって「やっぱり退職したくない」と思っても、退職合意の効力を覆すことは容易ではないからです。そして、退職したくないという方は、はっきりと「退職しません」と会社に伝えることが重要です。

 次に、経営不振を理由とする解雇について説明しますが、このような解雇は「整理解雇」と言われています。普通の解雇や懲戒解雇と異なり、労働者に非がない場合(正確には「解雇に値するほどの非がない場合」)ですので、整理解雇の効力は厳格に判断されます。
 解雇については、労働契約法第16条が適用される結果、当該解雇に「客観的に合理的理由が存在し、社会通念上相当」といえる場合でなければ、無効となってしまいます。そして、この判断にあたって、整理解雇の場合には「人員整理の必要性」、「解雇回避努力義務の履行」、「被解雇者選定の合理性」、「解雇手続の妥当性」という4つの要素が主に考慮されます。

 「人員整理の必要性」においては会社の経営不振の程度が問題となりますし、「解雇回避努力義務の履行」においては会社が解雇を避けるための努力(例えば役員報酬の減額や従業員の給与減額、希望退職者の募集など)をどの程度行ったのかが問題となります。さらに、「被解雇者選定の合理性」においては、どのような理由で解雇の対象となる労働者を選んだのか、その理由は合理的といえるかが問題となりますし(例えば、経営者の単なる好き嫌いで対象となる労働者を選んだ場合には被解雇者選定の合理性がないといえます)、「解雇手続の妥当性」については解雇する労働者に対して、説明の場を設けたのか、当該労働者が納得できる程度に具体的に説明をしたのかといった点が問題となります。これらの4つの要素について会社側が具体的に立証しないと整理解雇は無効となる可能性が高いので、安易な整理解雇は控えることが必要です。
 労働者の立場からすると、整理解雇された場合、その他の解雇に比べて解雇無効と判断される可能性が高いので、納得できない場合にはまずは弁護士に相談してみるのがよいと思います。

 思った以上に長文となりましたので、このへんにしときます。それではまた来月に更新しますね。

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2021年2月27日 | コメント/トラックバック(0) |

カテゴリー:仕事

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